動物と違って種を保存するために必要なだけの性欲だけある
人間の性愛に対する欲は種の保存のためだけに存在しているのか?
人類は性欲を「種の保存」という本能から切り離した人間は誰でもさまざまな欲求を持って生きている。そして人間は自分にとって価値があると信じるものを手に入れようとする欲求(ニーズ)を持っていることになる。人間においても、他の動物と同様に、生理的・本能的な欲求の満足がもっとも根源的なものであることには変わりない。たとえば、アメリカの心理学者マズローは、人間の価値の序列として、①生理的・本能的な満足②安全の実現③親和的な関係性④自己を価値づけること⑤自己実現という五段階の図式を考えた。このマズローの図式においても、生理的・本能的価値を実現する欲求が一番根底にある。
生理的な欲求のなかでも、とりわけ人間の存在自体にかかわる欲求と言えば、まず食欲である。人間にとって食欲があるかないかは、大げさにいえば生命の維持にかかわる。食欲が個人の生命の存続を左右する欲求と言えるならば、人間のもう一つの重要な欲求は性欲である。性欲は、人類という種族の存続にかかわってくる本能に根ざしている。
本来、種の保存のために性欲が存在するという点では、人間も他の動物と何ら変わりはない。ところが、人間の性欲には他の動物と明らかに異なる特徴がある。人間以外の動物は、発情した時にだけ性交を行なう。すなわち、動物たちは自分たちの種族を存続するために必要なだけの性欲しか持っていないと言ってもいい。これに反して人間の場合、特定の発情期と関係なしに性交が行なわれる。これはどういうことを意味しているのだろうか。人間の女性には月経というものがある。
たとえば、中国には古代から、宦官と呼ばれる男たちがいた。女ばかりが居住する後宮につかえる役人のことで、男性の機能を持たない去勢された男性である。また、十五世紀にビザンチン帝国(東ローマ帝国)を滅ぼしたトルコには、イェニチェリと呼ばれる特別なエリート意識をもった軍団があった。彼らは少年時代に親から引き離され、成長しても妻帯を禁じられた。
こうした集団生活のなかで、彼らはトルコ軍の中核をなす精兵に仕立てあげられたのである。このような例からもわかるように、人間が自意識を持ったことから、人類においては生物学上の「性」と、人格を持った人間としての「性」とは違うものになってしまったのである。人間の性欲の在り方を精神分析の立場から見るとどうだろうか。
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